IEDM'24 TSMCのCPO技術の進展:フォトニクスと半導体製造の融合
はじめに
データ通信の需要が爆発的に増加する中、従来の銅配線技術では帯域幅や消費電力の制約が顕在化しています。TSMCは、この課題に対応するため、シリコンフォトニクス(SiPh)を活用したCo-Packaged Optics(CPO)技術を開発し、次世代データセンターやHPC(High-Performance Computing)向けのブロードバンド・オプティカルエンジンを目指しています。本記事では、TSMCの最新CPO技術の技術的優位性について、具体的なデータを交えて解説します。
1. 先進的なフォトニクス集積技術
1.1 COUPEとCoWoSによる高集積化
TSMCのCPO技術では、**COUPE(Compact Universal Photonic Engine)とCoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)**を活用し、フォトニクス集積回路(PIC)と電子集積回路(EIC)を統合。これにより、システムの小型化と信号伝送効率の向上が期待されています。
- 光損失の低減: O-bandグレーティングカプラ(GC)の結合損失は0.3dBに抑えられ、外部ファイバーとの結合精度は±10μm以内に制御。
- 電気信号の最適化: SoIC(System on Integrated Chip)を用いたEIC-PIC間の電気接続により、銅配線による信号減衰を低減。
- エッジカプリングとの比較優位性: エッジカプリングは、ファイバー数が制限される上に、ファイバーのアライメント精度が極めて高く要求されるため、製造プロセスが複雑化する。対照的に、グレーティングカプラ(GC)は、多列ファイバー接続が可能であり、アライメント許容範囲が広いため、大規模集積に適している。
1.2 先進的なフォトニクスプロセス
TSMCは300mm SOI(Silicon-On-Insulator)ウェーハを用いた最先端のCMOS技術を導入し、PIC製造プロセスを確立。これにより、以下の精度を目指しています。
- リソグラフィー制御: CD(Critical Dimension)変動3σ = 2nm以下(WiWおよびWtW)。
- 光導波路損失: シングルモードWGは0.67dB/cm、マルチモードWGは0.20dB/cm。
- シリコンナイトライド(SiN)活用: SiN WGは0.01dB/cm以下の伝搬損失を目指し、高出力(300mW超)でも劣化しない安定性を確保。
2. 高速・低消費電力のアクティブデバイス
2.1 マイクロリングモジュレータ(MRM)の高性能化
MRMは、低消費電力での信号変調に優れたデバイスですが、製造バラつきや温度変動に敏感です。TSMCは以下の技術でMRMの性能向上を目指しています。
- 変調帯域幅: 63GHz(6dB挿入損失)、76GHz(4dB挿入損失)
- 熱チューニング最適化: CD制御精度を1.44nm(3σ)以内に維持し、熱消費を最小限に抑制。
2.2 高速ゲルマニウム(Ge)フォトディテクタ
- 応答速度: 110GHz(3dB帯域、200μA光電流)、50GHz超(1mA)
- 高感度: -1.5Vバイアス時の暗電流は4.5nA、責任度(Responsivity)は1A/W(5mW入力時)
3. 設計評価を可能にするPDKの整備
TSMCは、Oバンドのフォトニックデバイスライブラリを含む**PDK(Process Design Kit)**を開発し、顧客が設計評価を行える環境を整備しています。このPDKには、
- パラメータ化されたセル(p-cell)
- Sパラメータモデル(25-105°C対応)
- RC特性のモデル化
- Verilog-Aサポートによる回路設計
- レイアウト設計ルールチェック(DRC)とポート接続検証
などが含まれており、設計精度の向上と開発効率の最適化が可能です。このPDKの整備により、量産へ向けた大きな一歩が踏み出されました。
参考文献
[1] S.K. Yeh, et al., "Silicon Photonics Platform for Next Generation Data Communication Technologies," TSMC, 2024. [2] H. Hsia, et al., "EPIC-BOE: An Electronic-Photonic Chiplet Integration Technology with IC Processes for Broadband Optical Engine Applications," TSMC, 2024.
注記: O-band(1260-1360nm)は、低分散で信号品質が良好なことから、シリコンフォトニクスやデータセンター向けの光通信技術に適した波長帯である。